« 2018年4月 | トップページ | 2018年9月 »

2018年8月

2018年8月31日 (金)

[本] 瀬戸内寂聴 『求愛』

 主に男女間の感情に関わる,30篇の短い小説を集めた本.帯の惹句を借りれば,「大病からよみがえり,執筆に執念を燃やし続けてたどり着いたさまざまな『愛』の形をつづる三十篇.数え歳九十五歳にして初めての,寂聴・掌小説集」.

 収録されている一つ一つが味わい深いのですが,それが30篇集まると,また,別の趣が生じます.つまり --- 今まで,無数の人々がこの世に生まれ,深い想いを抱きながら,あるいは,ふとした心の揺らぎを感じながら,一回限りの命を生き,そして,去って行った.その,深い想いや心の揺らぎが残り,空を漂う.それに耳をすませる・・・.

 あるいは,また,同じ作者の『釈迦』を思い出しました.『釈迦』でも,何人もの女性の生涯が語られていました.そして,それを黙って聞き取る釈尊.観音菩薩とは,衆生が苦しみ悩む声(音)を聞(観)いて救う菩薩だとも言われます.人々が叫び,あるいは,洩らす声に耳を澄ますこと.それは,救いに駆けつけるための手段というより,救いの一部なのかもしれない・・・そんなことへも思いが飛びました.

 以下余談: いくつかの作品のなかで,“スマホ”や“ケータイ”が小道具として非常に効果的に使われていました.お歳に似合わず(失礼),詳しいなぁ,作者のまわりには若い女性がいるらしいので,そういう人から聞いたのかな,と思ったのですが,作者本人が使いこなしていらっしゃるのですね.以前,平野敬一郎氏のブログで読んだ話を思い出しました.

瀬戸内寂聴さんがケータイを始められた頃、メールを初めとする諸機能を楽々使いこなされているので、失礼ながら、スゴイですね、と言うと、説明書を最初から最後まで全部読んだとおっしゃってました。「わたしは小説家だから書いてあるものを読めば分かるのよ。」とのこと。(平野敬一郎)

「小説家だから書いてあるものを読めば分かる」・・・恐れ入りました.

【補足】
瀬戸内寂聴『求愛』(集英社, 2016).
瀬戸内寂聴『釈迦』(新潮社, 2002).
平野敬一郎:こちらのブログから

2018年8月24日 (金)

[才市] (煩悩を)連ろうて遊べ

かかさんよい
煩悩が 連ろうて遊んでごせ(一緒に遊んでくれ)言うが 
どがあ(どう)しましょうかいな 
お 連ろうて遊べよ 
どがあ言うて 遊びましょうかいな 
念仏申して 連ろうて遊べよ
(『ご恩うれしや』, p.114 )

 三河のお園さんにこんな歌があるそうです.

1) 疑いよここききわけていんでたも そちがいるゆえ信が得られぬ

2) 疑いにここをのけとは無理なこと  むねをはなれて何処に行きましょ

3) 疑いよ是非行かぬならそこに居《い》よ  そちにかまわず信を取るべし

4) 疑いは何処に居《お》るかと問うたれば かわりに出て来る念仏の声

 この歌は,「疑い」を「煩悩」に置き換えると分かりやすいかもしれません.

 1) 厳しい修行で煩悩を滅し,覚りを目指す・・・.だから,覚りの邪魔になる煩悩よ,早く消えてくれ.信心を邪魔する疑いよ,どこかへ行ってくれ・・・.

 2) でも,煩悩は私の本性だ.追い払ったようでも,すぐ私の地がでてしまう.煩悩を滅し難いこと,私を離れて煩悩はないさえ言える.それを無理やり押さえこもうとすると,余計に苦しい.

 3) だったら,煩悩を抑えようとして,無駄に苦しむことはやめよう.煩悩を地体とする私たち(凡夫)に向かって,阿弥陀様はそのままで救うと呼びかけてくださっている.だから,煩悩・疑いが残っていることに足を取られず,阿弥陀様の呼び声,つまり,お念仏を聞かせていただこう.それが私の信心だ.

 4) さて,煩悩はどこにいったのかな.ああ,南無阿弥陀さまがしっかりと抱きとってくださっている.阿弥陀様と一緒にいる・・・.

 この歌は,(とくに後の二つが)才市さんの上の口あいとほとんど同じ味わいです.第3歌と「(煩悩を)連ろうて遊べ」,第4歌と,「念仏申して・・・遊べ」.

 源信和尚の「妄念はもとより凡夫の地体なり。・・・妄念をいとわずして、信心のあさきをなげきて、こころざしを深くして常に名号を唱うべし」というお言葉も,このことを教えてくださっていると聞かせて頂いています.

 余談ですが聖書に,「右手が良いことをするのを左手に知らせるな」という意味の言葉があると聞いて,同じような意味かと思いました(右=善,左=悪という旧来の見方に基づいていると想定).でも,聖書では,まったく別の意味で言われているようでした.

【補足】
才市『ご恩うれしや』:石見の才市顕彰会編『ご恩うれしや』

お園さんの歌:川井学 絵『田原のお園』(難波別院, 2014), p.31.引用に際して 1) -- 4) の番号を仮に打ちました.

源信和尚:「横川法語」より.テキストは,こちらから引用しました.西本願寺の『注釈版聖典』(初版)所収テキストは少し違っているようです.

聖書:マタイ6:3

2018年8月18日 (土)

お盆の精霊馬

 今年のお盆はいかがお過ごしでしたでしょうか.お盆の仏事を勤めたり,盆踊りなどの行事に参加されたかとも多いと思います.

 さて,真宗では,お盆にあの世から霊が帰ってくるとは言いません.そのため,真宗の寺に育った私は,マスコミなどでよく取り上げられる「お盆の行事」,たとえば,迎え火,精霊棚,送り火などとは,ほとんど無縁で過ごしてきました.キュウリやナスで作った馬や牛も,話に聞いたり写真を見たりしたことはありましたが,実物を見たのはかなり後になってからです.
 そのときお聞きしたことですが,キュウリの馬はあの世から少しでも早く帰ってくるように,ナスの牛はあの世に戻るのが少しでも遅くなるためにという気持ちを込めて準備するのだそうです(Wikipediaを見たら,牛には,お土産をたくさん積めるようにという意味もあるそうです).
 もちろん,真宗ではこんなことはいいません.でも,先立たれた人に対するこのような気持ちを“間違いだ”と一刀のもとに切り捨てたり,“迷信だ”と嘲笑ったりするのも心ないことだと思います.このような気持ちの底にある,先立たれた人に対する追慕と感謝の念は尊ばれるべきものではないでしょうか.

 才市さんは阿弥陀さまを親に喩えます.これは才市さんに限ったことではなく,真宗ではよく使われる喩えです.
 でも,現実の親の愛がいつも阿弥陀さまの慈悲と同じように完全なものであるわけではありません.自分の子供を虐待したという痛ましい事件がときどき報じられます.そこまでいかなくても,親の「愛情」がかえって子供を傷付け苦しめるというのはよく聞く話です.
 しかし,そのような不完全な親の愛情から純粋な部分だけを取り出して,それを,阿弥陀さまのお慈悲の比喩に使います.そして,それを聞かせていただく私たちも,親に対する様々な気持ちの中にある(あった?)絶対的な信頼と,それがいかに大切なものか,あるいは,それをどれだけ求めているかに改めて気づかされ,それを手がかりに阿弥陀さまへの思いが育まれていきます.

 ご先祖のためにキュウリやナスで馬や牛を作るのも似たようなことだと思います.真宗の立場から言えば,このような習慣は意味のないものです.しかし,このような習慣の底にある,先立たれた人に対する追慕と感謝の念という点においては,真宗ではない方とも,共感し合い,お話ができるように思いますが,いかがでしょうか.

2018年8月 6日 (月)

[本] 関千枝子『広島第二県女二年西組: 原爆で死んだ級友たち』

 この本は,自分で求めて読んだのではなく,もらって,いわば受け身的に読んだのだが,強い印象を受けた.内容的には,著者の旧友,二年西組の一人一人が,原爆投下時に何をしていたか,そして,どのように死んで行ったかを克明に調べ,記録したものである.

 表面的には,ただ,それだけ.表だって何かを訴えているようには見えない.だけども,心に強く響く.どうしてだろうか,と思いながら,そのままになっていたが,昨日,新聞で次のような一節を読んだ.

広島の原爆で犠牲になったのは14万人とされる.「一人ひとりちゃんと顔を持って,人格を持っていたの」と伝えたくて,渡辺さんは朗読劇を続けてきた.(『朝日新聞』2018.05.05付け)

33年間,原爆に関わる朗読劇を続けてきた方の活動を伝える新聞記事の一節だが,これを読んで,本書を思い出し,なぜ,強い感銘を受けたのかやっとわかったような気がした.

 旧友一人一人の様子を具体的に記録した本書は,原爆で殺された人々が,「一人ひとりちゃんと顔を持って,人格を持っていた」ことを強く訴えているのだった.

以上,広島原爆忌に寄せて.

【補足】
関千枝子『広島第二県女二年西組: 原爆で死んだ級友たち』(筑摩書房, 1985).

平安高校に勤めていた頃,この本が夏休みの(?)課題図書に指定され,教員にも配布されました(全教員に配布したのか,担任だけだったのか覚えていない).そういう縁で読んだ本です.なお,その後,文庫本が出たようですが,そちらは見ていません.30年以上前に読んだ本ですので,記憶違いがあるかもしれません.

更新が滞っていますが,これからは,本の感想なども交えて更新していこうと思います・・・などと言ってますが,実は,前(2016.10.18)にも,似たようなことを言っていますねぇ・・・(^^;).今回こそは・・・.
フォト
2019年5月
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31  

ウェブページ

最近のトラックバック

無料ブログはココログ